
どーも!
土地なしサラリーマンの
くさおです
キリン団扇の挿し木を100本購入したので、発根促進実験をおこないました。
植え込み後2週間経過したので効果の検証をしました。

実験内容
目的:早く発根する方法を探る
実験方法:各種条件で発根までの期間に差があるか検証
①NC(通常処理 比較用)
②発根促進剤(オキシベロン2~16倍希釈)
③密封挿しの条件
実験体:キリン団扇 各条件17本
処理日から2週間後に発根有無を目視確認
集計データを分散分析、多重比較する
文書だとイメージが湧かないですよね。
以下図のように実験を進めました。

そしてデータを集計してわかったことがこちら!
①無処理でも発根する。しかし発根促進剤を使用した方が2週間後の発根量が多かった
②最も発根量が多かったのはオキシベロン2倍希釈
実験結果を分散分析・T検定で比較
発根量:NC(通常)≒ 密封挿し ≪(O×4)≒(O×16)<(O×8)<(O×2)
③挿し木のサイズ大小による発根量の差はなかった
④設置位置による発根の差はなかった

くだらねえ!!
今回の実験ではざっくりこの様な結果となりました。では順を追って説明していきます!
発根確認
挿し木を引き抜き発根の有無を確認します。

植え込み2週間で良く発根しています😊

そして気が付きました…
これ全部発根してるんじゃね!?

なにもしていないNC群でも発根しています。
キリン団扇つええ…!
発根生長点のない挿し木は脇目も生えています。
これでは何をやっても発根するという身も蓋もない結果に…
というわけで評価方法を変更しました。
ダメな実験の典型例です。
BEFORE:発根の有無→AFTER:発根量を1~5段階で評価

行き当たりばったりですね…
↓発根わずか=1

↓発根最多レベル=5

上下の基準を決めたのであとは中間を3とし基準を決めていきます(感覚)
↓2

↓4

お気づきの通り、発根量は感覚的に判断しているので
評価にバラツキが出てきそうです。
なので2度チェックして整合性を高めます。

温室の暑さにもだえながら評価をしていきます…

そして集計したデータがこちら(Fig2)

発根量比較

では発根量の差を確認していきます。
下の表(Fig3)をじっくり観察してみます。

う~ん…
まあ、違いがありそうですね
ぱっとみオキシベロン2倍希釈が平均3.65ポイントと1番高いです。
しかし各サンプルのバラツキもあるのでこの差は誤差の範囲かなんとも言えません。
このあたりを直感で決めてしまうと後で恥をかく恐れがあります。
なのでここから先はEXCEL先生の出番です。
EXCEL「分析ツール」を使って判断していきます。
密封挿しとオキシベロンは実験としては別ものです。それをごちゃ混ぜにして評価すると差が見えなくなる恐れがあります。
ですので以下のように2つに分けて比較していきます。
比較対象
①NC(通常)と密封挿し
サンプルサイズ34, α=0.15, Power=0.8 ,Effect size=0.4(仮定)
②NCとオキシベロン2~16倍希釈
サンプルサイズ85, α=0.05,Power=0.8, Effect size=0.4(仮定)
①NC(通常)と密封挿し
ここから先は分散分析という手法を使っていきます。

なんやねんそれ!!
ざっくり言うと2つのグループの結果に差があるかどうかを計算して判断します。
ただし数値的に判断するのでYES,NOでハッキリ決めれるものではありません。確率的な判断になりますが、人間の勘よりはあてになるでしょう😌
では作業を進めます。

今回は各条件の発根量を比較するので’対応の無い一元配置分散分析’を選びます。

αを有意水準といい、判断の基準となります。
有意水準は慣習的に5%(0.05)が使われています。薬の試験など、何かあっちゃまずいものは1%(0.01)と厳しめに設定されています。
今回は有意水準αを0.05に設定します。
そして分散分析の結果がこちら(Fig4)

ここで見るべき重要な数値はP-値
今回の結果が約0.09です。
NCと密封挿しの発根量はサンプルごとにバラツキがあります。分散分析をそれらのバラツキを加味して比較していきます。
そしてこのP値はNCと密封挿しの発根量に差が無いという結果になる確率になります。


NCと密封挿しの発根量に差が無い確率が9%、先に説明した判断の基準値は5%に設定しています(有意水準)
差が無い確率(P値)が5%を切っていれば偶然でなく差があると言えるよね~話です(帰無仮説の棄却)

まあ確率の話なので実際差がなくても、5%の確率で差があるという結果になることもあります。でもそれなりの信頼性はある。
説明が長くなりましたが、P-値=0.09(9%)は有意水準0.05(5%)を下回っていないので、NCと密封挿しの発根量は差が無い=効果なしという結果になりました。

眠たいぜ…!
②NC(通常)とオキシベロン
続きてオキシベロンの結果を評価していきます。
先ほどと同様に分散分析をかけます(Fig5)

P-値は6.67×10-10
非常に低い値が出ました。
NCとオキシベロンでは発根量に違いがありそうです。
分散分析は全体(今回は5条件)で比較しています。
どの濃度が優れているかはここからでは読み取れません。
ここから先はt-検定という手法で一対一の条件で比較していきます。

T-検定も種類がありますが、今回は等分散を仮定した2標本による検定を選択します。
今回は10の組み合わせで比較します。
①NCとオキシベロン2倍希釈
②NCとオキシベロン4倍希釈
③NCとオキシベロン8倍希釈
④NCとオキシベロン16倍希釈
⑤オキシベロン2倍希釈と4倍希釈
⑥オキシベロン2倍希釈と8倍希釈
⑦オキシベロン2倍希釈と16倍希釈
⑧オキシベロン4倍希釈と8倍希釈
⑨オキシベロン4倍希釈と16倍希釈
⑩オキシベロン8倍希釈と16倍希釈
有意水準αは先ほどと同じく0.05なのですが、t-検定で何度も比較を行うと宝くじをたくさん買うようなもので
当たり(差が)出やすくなってしまう為、組み合わせの数だけ有意水準を割って小さく設定してあげます(Bonferron法)
このやり方だと10通りもあると差が見えづらいというデメリットもあります。
α=0.05/10通り=0.05と設定します。

これを10通りコツコツおこないます(めんどくさい)
その結果がFig5です。

ここで見るべき値はt値とt境界値両側です。
t値が境界値より大きければ2つの発根量に差があると言えます。
10通りの組み合わせをT-検定した結果がこちら(Fig6)

上記の結果から各条件の平均値に優位をつけるとこのような結果に
発根量:NC(通常)≒ 密封挿し ≪(O×4)≒(O×16)<(O×8)<(O×2)
Fig6の結果からオキシベロン2倍希釈=8倍希釈は差が無いという結果になりましたが、8倍希釈の比較では8倍=4倍=16倍となり差がはっきりしている分だけ2倍希釈が優れているという判断になりました。発根量の平均値(Fig3)を見比べたものと同じ結果となりました。
挿し木サイズによる差
続いて挿し木のサイズと発根量に違いがあるか確認しました。
大きい挿し木の方が力がありたくさん発根しそうだなと予想しました。

各サイズの平均値と標準偏差をまとめた表がこちら

う~ん
いまいち違いがはっきりしません。
なので分散分析をかけて判断します(Fig7)

P-値 約0.3
これはてんでダメですね。
挿し木のサイズと発根量は関係ないと言えます。
設置位置による差

これは前回の実験計画でアプリを使って各種サンプルをランダム配置しました。
置き場所によって日当たり・風通しなどが変わり発根に差でないようにするため。

しかしFig1を見てみるとなんだか左側の方が発根量が多そうな気がします。
そこでランダム配置が昨日しているか確認してみます。

各ブロックの平均値だけみるとNo31-45の発根量が多そうにみえます。
しかしよりフェアにみるため分散分析をかけます(Fig8)

分散分析の結果P-値は0.27です。
この結果サンプルの設置場所ごとの発根量には差がありませんでした。
ランダム配置はしっかりと機能していたようです。
サンプルサイズ
最後にサンプルサイズの話です。
実験では予想と違う結果になることが度々あります。そういった原因の多くはサンプル数の不足によるものです。
結果には多かれ少なかれバラツキがあるので、数が少ないと偏った結果になる可能性が高くなります。
でもどこまでサンプル数をいいのかわかりませんよね?
各条件100本なんてとてつもない労力がかかります。
そこて登場するのが「G power」というアプリです。
こやつは実験の条件ごとに適切なサンプルサイズ=データ数を計算してくれます。
しかも無料です。たしかドイツの大学が世界の研究者向けに無料で提供しているらしいです。
処理による効果量(Effect size)を大(0.4)で仮定した時、
有意水準α:0.05、検出力 Power:0.8 の精度で分散分析をするのに必要なサンプルサイズを事前に計算します。
今回の実験では102本のキリン団扇をそれなりの精度で分散分析をできる数に振り分けました。
条件数6で各サンプル数を17としました(Fig9)


左はNCとオキシベロンのサンプルサイズ計算です。
グループ数は条件の数なのでNC,2倍希釈、4倍、8倍、16倍の5条件です。
その場合はサンプルサイズは80必要になります。各種条件17本×5条件=サンプルサイズ85になるので精度を確保する数は満たしています。
右はNCと密封挿しの条件です。
こちらは有意水準0.05の精度で行うにはサンプルサイズ52必要でした。
しかし実際は2条件34本しかありません。その数で分散分析の精度を確保できるのは有意水準0.15までとなります。
先におこなった分析分析ではNCと密封挿しは差が無いと判断しましたが、仮に差があるという結果になっても有意水準0.05ではサンプルサイズが不足しているので信憑性は不十分ということになります。有意水準0.15での結果なら信憑性あり。
ちなみに検出力(Power)は差が無いという結果になった際の信憑性です。NCと密封挿しでは分散分析により差が無いという結果になりました。しかし正確には差が無い確率は80%、本当は差があるのに差が無いと判断された確率が20%ということです。
薬と一緒で効果が無いのに有ると判断されるケースの方が問題があるので、検出力より有意水準の方が厳しめに設定されています。
有意水準0.05、検出力0.8というのは論文の標準レベルです。
いかがわしい情報とつばを吐かれないよう、今回はその水準に合わせて設定しました。

説明が長ぇ…
考察・まとめ
長くなりましたが今回の実験でわかったことはこちら
①無処理でも発根する。しかし発根促進剤を使用した方が2週間後の発根量が多かった
②最も発根量が多かったのはオキシベロン2倍希釈
実験結果を分散分析・T検定で比較
発根量:NC(通常)≒ 密封挿し ≪(O×4)≒(O×16)<(O×8)<(O×2)
③挿し木のサイズ大小による発根量の差はなかった
④設置位置による発根の差はなかった
今回の実験ですべての挿し木が発根していたのは予想外でした。実験で使用したキリン団扇が強健であるだけでなく、夏場の気温が高い時期だったのが影響しているかもしれません。
しかし発根量に差があることが確認できたことから、オキシベロンには発根後の根の生育にも影響を与えている可能性がありそうです。
オキシベロン希釈濃度は2倍が一番優れた結果でした。
しかしそれ以降は8倍>4倍≒16倍と続きましたが、このあたりが単純に濃度順にならなかったのが不可解です。
挿し木のサイズの影響も無いことが証明できましたしランダム配置をも機能していたので何が影響したのかノーアイデアです。
次やるなら(やらないけど)2~8倍希釈に条件を絞ればハッキリするかもしれません(ご意見あればください)
ちなみに春日井ノパルでオキシベロン実験をした時は4倍希釈が結果がよかったです。
このあたりは品種によって適正濃度が違うようなので参考程度にしていただければと思います。
後日談となりますが、
発根量をチェックする為に引き抜いた挿し木の1/3程はその後調子を落としてヘロヘロになってしまいました

やはり発根量の比較というやつは植物へのダメージもあるので簡単にはできませんね!
ちなみに最先端の研究機関では、X線CTで鉢内の根を3D画像で評価できる手法が確立されたようです。→これにより根の品種改良も進む模様
家庭で気軽に観察できる日は来なそうですが、技術の進歩はワクワクさせてくれますね。
X線CTで、ポット植え作物の根を非破壊で可視化することに成功
ではばーい!
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